声 明
本日、横浜地方裁判所川崎支部は、川崎市内に居住する在日3世の崔江以子さんに対し、「日本に仇なす敵国人さっさと祖国へ帰れ。」「差別の当たり屋」「被害者ビジネス」などと、ヘイトスピーチ等を繰り返した男性に対し、「不当な差別的言動」(ヘイトスピーチ解消法2条)に該当する発言については、慰謝料100万円、名誉感情を毀損する発言については、慰謝料70万円、その他弁護士費用等を含め、合計194万円の支払いを命ずる判決を下した。弁護団は、本判決をヘイトスピーチを断罪する画期的な判決として評価する。
本判決は、「日本に仇なす敵国人め。さっさと祖国へ帰れ」との投稿について、ヘイトスピーチ解消法2条にいう「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」に該当すると認めた。そのうえで、本判決は、「憲法13条に由来する人格権、すなわち、本邦外出身者であることを理由として地域社会から排除され、また出身国等の属性に関する名誉感情等個人の尊厳を害されることなく、住居において平穏に生活する権利は、本邦外出身者について、日本国民と同様に享受されるべきものである。そうすると、本件記述1の記載は、本邦外出身者である原告について、地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動であるから、住居において平穏に生活する権利等も人格権に対する違法な権利侵害に当たり、本件投稿1の投稿は不法行為を構成する。」と述べた。
そして、本判決は、「被告の用いた『祖国へ帰れ』、すなわち朝鮮半島へ帰れとの表現は、原告が日本の地域社会の一員として過ごしてきたこれまでの人生や原告の存在自体をも否定するものであって、当該表現が原告の名誉感情、生活の平穏及び個人の尊厳を害した程度は著しく、これらの人格権侵害による原告の精神的苦痛は非常に大きい」として、100万円という慰謝料を認めたのである。「祖国へ帰れ」との言動は、永く在日コリアンを苦しめてきた、かつ、現在も苦しめているヘイトスピーチの典型であり、かかる言動が違法な差別的言動に該当すると認められ、高額な慰謝料が認められたことは極めて意義のあることである。
また、本判決は、「差別の当たり屋」や、「被害者ビジネス」との表現は、原告の名誉感情を大きく侵害したとして、70万円の慰謝料を認めた。
以上のとおり、本判決は、現在もインターネット上で繰り返されている在日コリアンに対するヘイトスピーチを厳しく断罪したものである。また、本判決は、理念法にとどまるとされてきたヘイトスピーチ解消法2条の「不当な差別的言動」に該当すれば、人格権侵害として違法であるとして、同法を補充し、実効あらしめるものである。弁護団としては、本判決の意義とこの裁判の成果を全国に広げ、ヘイトスピーチ根絶のために今後も闘っていく所存である。
2023年10月12日
崔江以子弁護団
事件の判決文は以下のリンクからご覧ください。
横浜地方裁判所川崎支部令和3年(ワ)第913号判決正本